親知らずの炎症について知っておきたいこと ― 原因・治療法・抜歯の判断基準
ある日突然、奥歯のあたりがズキズキと痛み出し、口が開けづらい、食事がしにくい…そんな症状を経験したことはありませんか?その原因として多く見られるのが「親知らずの炎症」です。親知らずは、永久歯の中でも最後に生えてくる歯であり、さまざまなトラブルを引き起こしやすい部位でもあります。このコラムでは、親知らずの炎症が起こる理由や治療法、そして抜歯すべきかどうかの判断ポイントについて詳しく解説します。
親知らずとは?
親知らず(第三大臼歯)は、奥歯の一番後ろに生えてくる永久歯で、通常18歳〜25歳ごろに萌出します。「親に知られずに生えてくる歯」という由来からその名がつけられました。
しかし、現代人の顎は進化とともに小さくなってきており、すべての歯がきれいに並ぶスペースが不足していることが多く、親知らずが正しい方向に生えない「埋伏歯」や「斜めに生えている歯」が多く見られます。このような不正な生え方が、さまざまな炎症やトラブルの原因となります。
親知らずの炎症 ― 主な原因
親知らずのまわりで起きる炎症は、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれます。以下のような理由で発症することが多いです。
1. 歯ぐきの一部が親知らずを覆っている
親知らずが中途半端に顔を出している場合、その一部を歯ぐきがかぶっていることがあります。この部分に食べかすや細菌がたまりやすく、ブラッシングもしづらいため、炎症が起こりやすくなります。
2. 清掃不良
親知らずは口の一番奥にあるため、歯ブラシが届きにくく、汚れが残りがちです。これが原因で細菌が増殖し、歯ぐきに腫れや膿がたまることがあります。
3. 歯並びや咬み合わせの異常
斜めに生えている親知らずが、隣の歯(第二大臼歯)に押し当たることで、歯と歯の間に汚れがたまり、虫歯や歯周病を引き起こすことがあります。
親知らずの炎症によって起こる症状
智歯周囲炎が起こると、以下のような症状がみられます。
• 奥歯のあたりの痛みや腫れ
• 口を開けづらい(開口障害)
• 飲み込むと喉の奥に痛みを感じる
• 発熱や倦怠感
• 頬やリンパの腫れ
炎症が進行すると、膿がたまり、顔が大きく腫れたり、全身症状が現れることもあるため、早期の対応が大切です。
基本的な治療法
親知らずの炎症が起きた場合、以下のような治療が行われます。
1. 抗生物質・消炎鎮痛剤の投与
細菌感染による炎症であるため、まずは抗生物質を処方して細菌の増殖を抑えます。同時に痛みや腫れを抑えるために消炎鎮痛剤を服用します。
2. 口腔内の清掃と消毒
膿が溜まっている場合は、洗浄・排膿を行います。また、歯ぐきのポケットの中の汚れを取り除き、感染源を除去します。
3. 経過観察と再発予防
炎症が落ち着いた段階で、再発予防のための処置を検討します。症状が繰り返される場合や、将来的に問題が予想される場合は、抜歯がすすめられることが多いです。
抜歯を検討すべきケースとは?
親知らずは必ずしも抜歯が必要というわけではありませんが、以下のようなケースでは抜歯が強くすすめられます。
● 繰り返し炎症を起こす場合
一度炎症が治まっても、親知らずの生え方が原因で再び炎症を起こすケースは少なくありません。その場合は、炎症の根本原因を除去するために抜歯が適しています。
● 親知らずが横向き・斜めに生えている場合
斜めや横向きに生えていると、歯並びに悪影響を与えたり、手前の歯を虫歯や歯周病にするリスクが高まります。歯列の健康を守るためにも、予防的な抜歯が勧められることがあります。
● 隣の歯が虫歯・歯周病になっている場合
親知らずが隣の歯と密着していると、その部分が清掃しづらくなり、虫歯や歯周病を引き起こすことがあります。手前の歯を守るために、親知らずの抜歯が必要です。
● 歯列矯正を行う場合
矯正治療を行う際、親知らずが歯の移動を妨げる原因になることがあります。この場合も、事前に抜歯することが多いです。
抜歯のタイミングと注意点
炎症が強く出ている最中は、抜歯を行わないことが一般的です。腫れや発熱があるときは、抜歯によるリスク(感染の拡大、出血など)が高まるため、まずは抗生物質などで炎症を抑える治療が優先されます。
炎症が収まった後、レントゲンやCTで親知らずの位置や周囲の骨・神経との関係を確認したうえで、安全に抜歯を行います。特に下の親知らずは、下顎管という神経の通り道に近いため、慎重な判断が必要です。
親知らずと上手に付き合うために
すべての親知らずが問題を起こすわけではありません。まっすぐ生えていて、噛み合わせにきちんと関与している場合は、抜歯の必要はないこともあります。ただし、そのようなケースでも、虫歯や歯周病のリスクが高い部位であるため、定期的なチェックと丁寧な清掃が欠かせません。
もし違和感や痛みがある場合は、我慢せずに早めに歯科を受診しましょう。炎症が軽いうちであれば、治療も比較的スムーズに進みます。親知らずの状態は人それぞれ異なるため、まずは専門的な診断を受けることが、将来的なトラブルを防ぐ第一歩です。
まとめ
親知らずは、現代人の口腔内において「厄介者」になりがちな存在です。特に生え方が不完全な場合や清掃が行き届かない場合には、炎症を引き起こしやすくなります。しかし、炎症が起きても慌てず、適切な治療と対応を受けることで、症状は改善し、再発も防ぐことが可能です。
抜歯についても、「とにかく抜く」のではなく、「必要な場合に、安全に抜く」ことが大切です。自分の親知らずが将来的に問題を起こす可能性があるかどうかを、歯科医院で一度しっかり診てもらうことをおすすめします。
2025年4月24日 カテゴリ:未分類